正しい知識①-吃音は治すものではない
吃音は治すものではない
吃音に”打ち勝つ”、
吃音を”取り除く”、
という考えでは上手くいきません。
なぜなら、吃音は”自己防衛反応”によって起こる現象だからです。
相手に話すことに恐怖を感じていて、
そんな自分自身を守るために、
脳が「吃音」という”言葉が詰まるセンサー”を送っているのです。
これは分かりやすく言うと、
脳は、相手に「言葉を言いたくない」と言っているのです。
それは、言葉が伝わることで、人間関係が悪化することを恐れていることもそうですし、
吃音歴が長くなると、
「どもることで相手に嫌われるから」ということも大きな要因の一つです。
しかし、実際問題、あなたは相手に言葉を伝えたい。
そして、脳はそれを拒絶し、どもりを加速させる。
さらに言葉が良いづらくなり、ますます「相手に伝えたい」という思いが大きくなります。
言い換えるならば、話すことの難易度を、自分で上げてしまっているのです。
しかし、それが分かっていたとしても、意味がないのが吃音症の難しいところです。
何故なら、脳のセンサーはコントロールできないからです。
身体は、言いたくない。どもって嫌われたくないと言っているのに、
本人は、どうしても言いたいと思っている。
「自分の身体」と「自分の意志」が”ケンカ”してしまっているのです。
吃音の悩みが深刻化していくと、
連発「ああああああありがとう」や、伸発「あーーーーーーりがとう」
ではなく、
難発「…!…!…ありがとう」
の頻度が高くなっていくことは、それ故の現象なのです。
身体と意思がケンカするという状況は、自分にとって異常事態です 。
吃音以外で例を挙げると、”金縛り”があります。
「起きたい…!」と思っているのに、
身体は眠っていて動かない。
実際に金縛りにかかったことがある人は分かると思いますが、
とても恐ろしくて、怖い経験をされたはずです。
「話したい…!」と思っているのに、
身体は拒絶して声が出ない。
同じようなことが、吃音者には、起こっているのです。
それも何か話すたびにです。
それは、吃音と戦い続けると、とても苦しい思いをした挙句、何の成果も得られない
ことがよく理解できるのではないでしょうか。
では、ラクに生きていくためには、
一体、「自分の吃音」とどう向き合えばよいのでしょうか?
まずは、吃音者は「話したい」という欲求を人一倍持っていることを理解して、
その気持ちを非吃音者と同じようなレベルまで下げていくことです。
もちろんこれが簡単ではないということは確かです。
しかし、「だからできない」では話が進みませんので、難易度の話は一旦置きます。
一度、周りの人たちが話している所をよく観察してみてください。
その人たちは「どうしても話したい…!」という気持ちで話しているように見えるでしょうか?
もちろん、非吃音者はほとんどどもりませんし、どもったとしても「あ、噛んだ」という程度で終わってしまいますので、気軽に話せるのは当たり前のように見えますが、
”この感覚”が、吃音と向き合っていくためには重要になります。
どもる、どもらない関係なく、
「どもっても別にいいから、焦らずに平静に話す」
という気持ちで話すということです。
非吃音者の人でも、
例えば、相手に告白するときに、
「僕と、つっ、つっ、付き合ってください!」
という話し方になる人がいることをあなたもご存じなのではないでしょうか。
あれは、「付き合ってください」という言葉をどうしても言いたいからこそのどもりなのです。
私たち吃音者は、非吃音者の告白の言葉の”全会話版”
と捉えることができれば、
ずいぶんと吃音というものの”正体”が理解できてくるのではないでしょうか。
全ての会話に置いて、「話したい欲」が強すぎるためにどもってしまう。
吃音という現象を「あなたの理解の下」に置くと、
少しは吃音の悩みが軽くなるはずです。
そして、もう一つは、
身体の反応、脳のセンサーを少しずつ”働かなく”していくということです。
これも簡単なことではありません。
むしろこちらの方が、改善していくのにかなりの月日がかかることでしょう。
しかし、毎日の積み重ねで、
身体の反応は確実に変えていくことが出来ます。
これは”スポーツ心理学”と似ていると私は思っています。
才能・技術は持っていても、
本番で緊張して本領が発揮できないスポーツ選手はたくさんいると思います。
しかし、トップアスリートとなると、
オリンピックや国際大会のような大きな舞台で、
「確実レベル」で本領を発揮してきます。
これは、トップアスリートが
生まれながら「鋼のメンタル」を持ち合わせているだけなのでしょうか。
そういった人も中にはいるかもしれませんが、
多くの人は、心理学を学び、
本番に恐れない、失敗という恐怖をできるだけ取り除く訓練をしているのです。
話す本番に恐れない、どもる恐怖をできるだけ取り除いていくこと。
向き合う場が、
世界なのか、
自分自身の内面の世界なのか、
その違いだけです。
スケールは全然違いますが、やることは同じです。
脳のセンサーを働かなくしていくためには、
自分が「吃音者である自分をどれだけ受け入れられるのか」にかかってきます。
ーーーーーーー
別にどもってもいい。”気持ち”が伝わればそれでいい。
どもりによって嫌な思いをすることはたくさんあるけれど、
そこは、上手に向き合っていこう。
言えなかった自分を責めず、受け入れ、労わり、
心のない人達からは距離を置き、
そんな「自分だからできること」をやっていこう。
孤独感に苛まれる時は、進んで「周りの人の助け」を借りていこう。
頼ることは悪いことではない。
私自身が劣っているわけでは”決してない”のだから。
ーーーーーーー
どのような言葉があなたにとっていいのかは
誰にも分かりません。
正しい知識を理解したうえで、
あなたが「あなた自身を大切に思う言葉」を心の中で日々かけ続けてください。
これは、決して「気休め」ではありません。
正しく”事実”を認識して、自信を持って生きていきましょう。